中萬学院CG啓明館では、中学受験生の国語力練成の一環として、読書の習慣を奨励している。インターエデュではCG啓明館での読書への取り組み、また読書と国語力との連関について取材した。お相手は中学受験の指導で20年近くの経験と実績をお持ちである、CG啓明館の国語科教科長、吉田星司先生。


中学受験の国語の専門家である吉田先生にお伺いしたいのですが、中学受験において国語という教科はどういった位置を占めているのでしょうか。

もちろん受験教科としても主要なものです。現在は2教科受験こそ減りましたが、4教科受験でも算数と国語の配点が高いという学校も多いですし。ですがそれ以上に、国語の力は全ての教科の学習に影響を及ぼします。『読む⇒理解する⇒考える』という思考のプロセスの全てに国語の力が関わってきますから。

それは例えば、「国語力が上がれば、算数の文章題で題意を把握するのが容易になる」といったことでしょうか。

そういったケースももちろんありますが、単純にそうだとも言い切れません。国語が得意な生徒でも、算数と合わせてバランスよく得点できるケースは少ないですね。一方、算数が得意で国語が苦手という生徒も、文章題の題意をしっかり把握できているからこそ算数で高得点を出せるわけで、読む力は備わっているということになります。

単純に、「読む力=国語力」とは言い切れないわけですか。

そもそも、国語力や読解法というものには、明確な法則はありません。算数でいうところの公式や定理、理科でいうところの物理法則といった、共通のルールがあるのはせいぜい語彙力や文法のみです。ある読解の問題で得点できた生徒が複数いたとしても、ある生徒は文章全体から読み取ったのかもしれませんし、別の生徒は傍線部付近に着目したかもしれません。たまたま同じような実体験があったから答えられた、というケースもあるでしょう。

他の科目と違い、たったひとつの絶対的な解法が存在しない、と。

そこが、よく「国語はセンスだ」とか「伸ばすのが難しい」と言われる所以だと思います。
ただいずれにせよ、国語の問題を解くプロセス、思考の過程は『いろんな解き方がある中で、それをその生徒なりに筋道を立てて、答案にする』というもので、すべて日本語を使って行っているものです。

ですので、受験学年である小6になる前に、なるべく多くの豊かな言語体験を積むことが思考力の養成、ひいては国語の得点力アップにつながっていくと私は考えています。

その言語体験を積む際、たとえばどういったことをするべきでしょうか。

解き方に色々な方法があるように、言語体験も多様なパターンがあります。いろいろな言葉に触れる・保護者や友達と話す・拙いながらも自分で考える、そういった知的刺激にあふれた日常生活がお子さんの思考力を培っていきます。

意識的に言語体験を積もうという場合も、たとえばまずは漢字の練習から入ってもよいですし、トレーニング代わりに新聞の社説の要約するのもいいでしょう。そういった種々のトレーニング方法の1つとして、我々は生徒に対して「読書」の習慣づけを行っています。

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読書の習慣づけに対する取り組みについてお聞かせください。

中学受験生に読んでもらいたい本のリストと簡単な解説を収録した「マイライブラリー」という手帳を作り、生徒の読書を奨励しています。この中から、まず興味のあるものから手にとって、それからバランスよく様々な本に触れてもらいたいと考えています。

(ぱらぱらと捲り……)あぁ、やはりありますね。中学入試頻出の「バッテリー」(笑)。

ええ。あれは定番ですから(笑)。「マイライブラリー」では、3・4年生向け、5・6年生向けに適した本を推奨し、物語文から説明文・論説文など、読みやすいものから堅いものまで幅広くチョイスしました。もちろん入試に出題されやすい本・作家も意識的に取り入れています。本の内容によって「成長」「家族」「愛」「生と死」「古今東西の名作」など14のテーマに分け、様々な本を紹介し、本選びの手がかりにしてもらっています。読書メモのページもあるので、自分の読書を振り返りながら、自分自身のライブラリー(図書館)を作ってほしいですね。

導入されてからの成果のほどは如何でしょうか。

全体的に読書率が上がってきています。ですがそれ以上に成果として実感しているのは、「読書の面白さ」や「知ることの楽しみ」を味わっている生徒が増えていることです。

先生方がマイライブラリーをお作りになったり、生徒に読書を奨励されたりすることなどは一見、直接受験指導とは関係ないように思えますが、どのような効用を生むのでしょうか。

やはり効率よく多様な言語体験を積ませたいですね。子どもは、興味のある本なら読む傾向があります。その興味を広げるためのナビゲーションがマイライブラリー。様々な本の世界に触れることによって、その面白さを体験してもらうことが大きなねらいです。様々な世界を覗くと、その子の言語世界は一回りも二回りも大きくなっていきますから。


さまざまな「言語体験」が思考力を深め、国語力の強化につながっていく、と。

そうですね。ですから、「受験のための読書」というのではなく、低学年のうちから「本が好きだから読書をする」というふうにもっていければと考えています。読書指導はむしろ、読むことや知ることそのものの楽しさを味わってもらうことに注力しています。「本を読むのって面白いな」と思ってくれたら、あとは無理強いしなくても生徒のほうから進んで本を読むようになりますから。読書の話をするときは「最初は、テレビやゲームの時間のうち30分間でいいから、読書の時間に切り替えてみて」と話しています。

「言語体験」というものは、本からでなければいけないでしょうか。ドラマやドキュメンタリーなどでも、本で描かれるような人物描写やあるいは知識といったものに触れられると思いますが。

たとえば心の交流の機微に触れることだけを目的とするならば、それは漫画でもできるかもしれません。ですがドラマにせよ漫画にせよ、ビジュアルのインパクトがとても強いですよね。ですから、言葉以外から受けとる情報・イメージが大きくなります。その点、本は、視覚から入ってくるイメージに頼ることなく活字から読み取っていく、つまり言葉だけで状況や心情を捉えていくことになります。となると、やはり読書にかなう言語体験はないと思いますね。

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