これから必要となる力 秋以降、学習ペースが速まる学校授業
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インターエデュズアイ

教育現場の荒廃、私立中学人気の過熱、大学全入時代へ突入……教育界がますます混迷の時代を迎える中、教育産業の果たす役割は大きくなっています。そこで教育サービス大手・Z会の代表取締役社長、加藤文夫氏に、これからの教育界の展望やZ会の教育に対する姿勢についてお話をお伺いしました。(聞き手:インターエデュ)

変容する受験スタイル

受験を通じ社会で役立つ力

好奇心を育む保護者の存在とは

多方面から基礎を鍛えるゼット会

変容する受験スタイル

―中学受験を選択するお子さんの数が年々増加しています。これについてどう思われますか?

中学受験をお考えの親御さんは、主に2つのものを求めていると思います。ひとつは有名大学の合格実績、もうひとつは自分の子どもと同じような環境で育った同級生です。公立の中学校はその地域のお子さんたちがそのまま入学します。所得層や家庭環境もさまざまな同級生の中ですと、傷害事件やいじめ等、お子さんの安全に関わることが起きるのではないかと不安に思われる親御さんも多いのではないかと思います。

一方、今年は地方の公立高校から多くの東大合格者が生まれていますし、東京都も入試問題自校作成校を設けるなど、難関大学合格に力を入れています。今後生まれてくる受験スタイルとして、「安全を考えて私立中学に入学させ、高校は大学合格実績を求めて公立高校を受験する」というパターンも考えられます。

―2007年からの大学全入時代についてどのようなお考えをお持ちですか?

大学全入時代と言われていますが、実態は二極化しているといえます。すでに定員割れの大学が多い中、人気大学は相変わらず高い倍率を保っています。そんな中、大学を選ぶ学生や親御さんの姿勢が変わってきたのではないかと感じています。

たとえば実学の人気が上がってきています。かつては商学部よりも経済学部のほうが人気を集めていたのですが、現在は逆転しています。商学部出身の学生のほうが企業社会において即戦力として活躍できるからです。

『卒業して社会人になってから何ができるか』という点で大学を選ぶ学生が多い傾向がうかがえます。

受験を通じ社会で役立つ力を

―社会人として必要な力を早いうちに身につけたいと考えている学生が多いようですが、社会に出てから要求される力とはどういったものでしょうか。

どのような社会で活躍するにせよ、絶対に必要になってくるのは「分析力」と「応用力」、そして「表現力」です。

―とおっしゃいますと?

世の中の事象や自然現象はたいへん複雑とはいえ、結局は個々の要素の集合体です。複雑な事柄を1つ1つの要素に分けて、その構成の法則や原理を理解する力が「分析力」。そしてその要素を組み立てなおす力が「応用力」です。この2つをまとめて「考える力」と言い換えてもよいでしょう。

そして新たに組み上げてできたものをどう使うか、それがいかに有用か、を他人に伝えて理解させる力が「表現力」というわけです。

―具体的には社会のどのような局面で3つの力は役立つのでしょうか。

実例をあげてご説明します。

世の中には数多くの学問があり、それぞれ研究する分野こそ違いますが、やっていることは大きく3つの工程に分けられます。

  1. 研究対象を細かく分析して理解する。
  2. 1の理解をもとに、新たな法則や理論を組み立てる。
  3. 2で得られた法則や理論を世間に発表して納得させる。

この3つです。まさに分析力・応用力・表現力の3つが要求されていますね。
これは社会に出て、ビジネスシーンで働く場合にもあてはまります。

  1. 業務を構成する要素を把握し、仕事効率を上げる。
  2. 各要素を組み立てなおし、新たなシステムやビジネスモデルの着想を得る。
  3. 2の着想の有用性をわかりやすく表現し、他者に理解させる。

ビジネスの現場でも、こういったプロセスを踏むことによってはじめて新たな価値を創造することができるのです。

受験勉強というものは、以下の通り、学問やビジネスの現場で要求される3つの力を鍛える訓練なのです。

  1. 基礎的な問題は各教科の要素を理解する分析力の強化
  2. 基礎的な要素の複合である応用問題は文字通り応用力の強化
  3. 長い文章を書かせる記述問題や小論文は表現力の強化

「受験勉強の知識は社会に出てから役に立つものではない」といった批判はよく耳にしますが、受験勉強を通じて「分析→応用→表現」という、どんな社会でも必要になる3つのプロセスを反復練習をしている、といえます。

Z会は入学試験に合格することを最終目標としているのではなく、進学後や社会人になってからも役立つ力を身につけて欲しいと考えています。

好奇心を育む保護者の存在とは

―受験勉強を通じて3つの力を身につけるにあたり、最も重要なことは何でしょうか

日々の勉強を通じてこの3つの力を強化するには、基礎をしっかり身につけることが絶対に欠かせません。
どんな分野に進むにせよ、分析力がなければ何事にも取り掛かれませんから。

小学校低学年の段階なら、教科学習のみにこだわる必要はありません。親子でカレーを作るなどの体験学習を通じて、基礎力、分析力を身につける勉強のための素地をつくることも重要です。

応用問題とは、いくつかの基本的な要素の組み合わせです。たとえば東大や京大の入試問題は、教科書に書いてある内容のみで構成されている非常にオーソドックスな内容です。ですから小手先のテクニックを磨くのではなく、基本を深く理解することこそが、応用問題を解くための一番の近道なのだとZ会は考えています。

基礎力から応用力・表現力を無理なく身につけられるよう、Z会の教材は一見難しそうに見えて、基礎を1つ1つ理解できるような問題を取り揃えています。

─テスト勉強を通じた訓練以外に、3つの力を育てるための心構えがあれば教えてください。

まず、分析力を鍛えるには、やはり考えることです。与えられたものに満足せず、興味のあることについて自分から積極的に高度なものに触れていけば、自然と自分で頭を使って考えるようになっていきます。その際、最も重要なのは好奇心です。

たとえば時計に興味を持った子どもは、「なぜ時計の針が動くのだろう、どうして一定の時を刻むのだろう」という好奇心にかられて、時計を分解します。

最初は分解した部品を1人で元に戻すことはできないでしょう。しかし2回3回と繰り返すことで設計構造を把握し、どの部品がどういう役割をしているのかを理解していきます。これが分析力です。

構造を理解すれば、分解した時計を自分で組み立て直すことができるようになるでしょう。するとその経験をふまえて、今度は別のゼンマイ仕掛けの機械をつくれるようになっていく。これが応用力です。

このように、子どもの純粋無垢な好奇心が原動力となって、分析力や応用力が自然と身についていくのです。

―その好奇心を育てるためにはどうしたらよいのでしょうか。かなり難しいことだとは思いますが……。

いえ、全く難しいことではありません。もともと子どもは様々なことに対して好奇心を持っています。しかしその好奇心を親御さんが妨げてしまうケースが非常に多いのです

算数が得意で国語が不得意なお子さんがいたら、たいていの親御さんは算数の勉強よりも国語の勉強を優先させます。しかしお子さんは興味のないことをやらされることになり、勉強に対するモチベーションそのものを失っていってしまいます。

―つまり無理に欠点を補おうとすることで、「角を矯めて牛を殺す」という状況に陥ってしまっている、というわけですね。

その通りです。好奇心を失わせないためには、まず伸ばせる分野を伸ばすことです。簡単なものでは考える余地がありませんから、好奇心のあることに対してどんどん高度なものを与えて、お子さんがどんどん頭を使って考えるようにするべきです。

―ですが親としては、自分の子どもが1つのことにしか興味を持っていないのでは不安にも思いますが……。

もちろん、一芸だけで大成することは難しいでしょう。ですが一芸を伸ばし続けることで、別の分野の能力が要求されるときが必ず来ます。

世界で活躍するトップアスリート達は、ほとんどが英語を話せます。彼らは得意分野を生かして世界に羽ばたく際に必要になったから英語を身につけられたのです。もし学生時代に、最も打ち込んでいるスポーツをストップさせて英語の勉強をさせていたとしても、おそらく英語は身についていなかったでしょう。

―なるほど。誰かから強制される弱点補強と、必要に迫られて自発的に行う弱点補強とでは、本人のモチベーションがまるで違う、と。

そういうことです。興味のある分野を高めていく過程で、分析力や応用力は培われています。この姿勢さえあれば、少々の遅れなどあっという間に取り返すことができます。

多方面から基礎を鍛えるZ会

―いままでのお話をふまえて、小学生のお子さんが特に気をつけるべき点は何があるでしょうか

小学生のお子さんは勉強を楽しむことが大切です。知らなかったことを知る楽しさ、好奇心が満たされる楽しさ、それが重要です。そして勉強したことを親に説明して、褒めてもらう。となるとまた一段と楽しい……といった具合に、親御さんがお子さんの精神状態を把握して、楽しいという状況を作り出していってください。

その一番の近道は、まず褒めることです。親御さんの中には他のお子さんとの比較ばかりを気にして、お子さんのお尻を叩くことにだけ躍起になる方もおられますが、それではお子さんは勉強を楽しむことはできません。好奇心をつぶしてしまうことになるだけです。

そこでZ会では「個人別評価」というシステムを導入し、お子さんがどれだけ伸びたかという点を評価しています。クラスで何位、全国で何位といった相対評価ではなく、1人1人がどれだけ努力してどれだけ成長したか、それを最重視するのが教育というものではないでしょうか。

―中学生のお子さんが特に留意すべき点として、何が挙げられるでしょう。

やはり先ほどお話した通り、安易に人と比べないことです。人それぞれ、現在の到達段階や目標とすべきゴールに違いがあります。ですからZ会では一人一人のニーズにあわせた教材を作成しています。

また、中学生はたいへん多感な時期を迎えており、ちょっとしたことで挫折感を覚えてしまいます。そんな中学生を応援するため、Z会は電話やFAX、インターネット等、多様なメディアを駆使して「くじけないためのサポート」をあらゆる角度から行っています。

Z会にとって、通信添削指導は手段の1つにすぎません。お子さんによって通信添削が合っていたり、塾に通うのが合っていたり、参考書を読むだけで十分だったりと、様々なケースがあるでしょう。高校入試にチャレンジするお子さんと、中高一貫校に通うお子さんでは、やはり取り組むべき勉強も変わってきます。

1人1人のお子さんの状況に合わせて多様なサービスやサポートを用意することで、教育のソリューションを提供していきたいとZ会は考えています。

―最後に、将来を担うお子さん達に向けてメッセージをお願いします。

基礎だけはしっかりやってください。基礎をしっかりやることで分析力と応用力を身につけておけば、いざやりたいことが見つかったときに、やらなければならないと気づいたときに、目標に向けた努力をスムーズにスタートすることができます。気が付いたときにはもう時すでに遅し、ということはありません。

継続的な学習により、基礎は自然に身につきます。そんな皆さんをZ会は全力で応援します。