東洋英和女学院中学部高等部は、120年以上の歴史の中で、キリスト教の精神に基づいた人格教育、個の人格を尊重する人間形成を目指す教育を貫いてきた伝統校である。今回は東洋英和女学院高等部の石澤友康教頭に、同校の教育方針、理数系教育を重視した新カリキュラムの内容を中心に、学校生活について幅広くお話をうかがった。
将来生きていく上で大切なことを中高時代に学び、経験してほしいと教育に取り組む先生方の熱意と、生徒達を見守る温かな思いが伝わってくるインタビューとなった。
東洋英和女学院中学部高等部は、10年に1度の文部科学省の学習指導要領の改訂を機に、カリキュラムの見直しを行ってきている。
日本の教育全体が、理数重視の傾向にあることに加え、同校では、元々、医学・薬学・看護系の進路を希望する生徒が多かったこともあり、理数系の教育重視のカリキュラムへの移行を決定したという。実際の新カリキュラム実施は来年度からだが、すでに、高校1、2年生の理科、数学の時間数が増え、夏休みの補習講座については理数系の講座を増やし(高校3年生は大学受験に向けての講習)、手厚い指導を行っている。生徒達はとても熱心に取り組んでいる様子で、「毎日、教えてもらっている先生から補習をしてもらえるのはうれしい!」という感想が多く聞かれるとのこと。安心して受験勉強に取り組んでいける環境が、確実に整ってきていることを感じさせられる。
理科のカリキュラムについては、生徒の興味や発達に応じた段階的な指導という点に細やかに配慮されていることが特徴だ。中学校では実験の時間を多く取り、体験的な学習の中で、生徒が興味・関心を持つことのできるよう考えられたプログラムが組まれている。
高校になると、より実践的に問題を解いたり、深く考察する学習の中で、中身を深く学び、理解を深めていけるよう工夫がなされている。
理科に関連した取り組みのひとつとして、高校2年生で物理選択の生徒達がロボットコンテスト(マイクロソフト社とベネッセコーポレーションの協賛のイベント)に出場した。ロボットの組み立て、からプログラミングまですべてを行い、本番では、4足歩行での速さやパフォーマンスなどが競われる。女子校としては、めずらしい取り組みだろう。
決勝トーナメントに出場し、惜しくも優勝は逃したものの、見事、審査員特別賞を受賞し、生徒達にとって大きな経験になったようだ。
石澤友康教頭は、「生徒達は、休み時間の度にプログラムを直しにきたり、調整したりと、本当に一生懸命ロボットを育てていました」と話され、そうした分野に興味を持つ生徒の能力も十分に伸ばすことのできる指導をしていきたいと語られた。同校の生徒は元々、英語力が高く、絶対に得点できる科目があるという意味で大学受験の上で強みがあるが、それ以外の面の強化ということからも、理数科目を重視したいと考えているという。
しかし、やみくもに受験勉強をさせるというのとは違う。私立学校としての軸を据え、貫いていく東洋英和の姿勢は、受験間近でもぶれることはない。高校2年生ギリギリまで部活に励む。高校3年生では、週1回、合唱の時間があり、卒業式に向けての歌の練習を1年かけてやる。敢えて家庭科の時間も設けている。「高校3年だから、受験勉強一色というようにはならない。6年間めいっぱい学校生活をするのが東洋英和です」と石澤教頭は語られる。大学受験に向かって、ひたすら頑張るといった学校ではないが、生徒達は充実した学校生活を送り、余力を持って進学していくので、大学に入ってから伸び、活躍できる子が多いという。
同校の特色ある教育活動のひとつに「野尻キャンプ」がある。長野県信濃町、野尻湖最奥の静寂な入江にある学校施設において、1970年から40年以上にわたって実施している野外教育活動だ。野尻キャンプは、中学2年生で必修のほか、中学3年~高校3年の希望者が参加することができる。OGの大学生リーダーと教師リーダー、学年縦割りの生徒という構成のグループごとに、キャビンに宿泊し、水上アクティビティを中心とした活動が行われる。生徒は、水泳、ヨット、カヤック、ボートの中から選択し練習を重ね、最終日には遠泳や遠出など、その成果を発揮する活動で締めくくる。「女子」というイメージを覆す、たくましさが感じられる活動だ。
また、年齢差のある集団で、ともに生活体験をすることは、生徒達にとって貴重な体験になるようだ。野尻での出会いが、人生において長く続く大切な人間関係につながったり、深い絆が生まれることも多いという。
石澤教頭は、「生徒達は人間関係の面で強い。コミュニケーション力に優れ、リーダーシップがとれる人としての成長に、野尻キャンプの経験は大きな意味を持っていると思います」と話される。
野尻が思い出の場所として心に残り、卒業して何十年経ってもなお、ここを訪れるOGも多いという。また、この活動には保護者の方々からの力添えも大きい。シーズンの初めには、施設の整備やメンテナンスのために、多くの保護者の方々(現役生徒の保護者のみならず、卒業生の保護者も多い)がボランティアで参加してくれるという。
同校では、昨年から卒業生が主体となって新宿御苑の茶室でお茶会(英和茶会)を催しており、高校2年生に必修とした。日本の大事な伝統文化を学ぶとともに、本格的に受験に向かうきっかけの行事としても位置づけているという。「学校の力は、人の力」と教頭。
様々な学校行事に、保護者や卒業生が積極的に関わってくれる、長く学校とつきあっていくことができるのがこの学校の良さだとも。
東洋英和は、周りの大人に温かく見守られた中で、明るくのびのびと学校生活を送り、自分を出し切ることができる環境だ。
石澤教頭は同校の卒業生について「いざという時に力を発揮する芯の強い女性が多い」と話されたが、こうした学校の環境や経験が自己肯定につながり、他人のことを自分のことのように考える優しさとつらいことを乗り越えられる強さの源になっているのだろう。