「科学は楽しいこと。若い人が科学にあこがれを持ち、楽しみを覚え、わくわくする気持ちで身につけてほしい」
昨年、ノーベル物理学賞を受賞した京都産業大学の益川敏英教授は、受賞決定後このように語られました。
益川さんは子どもの頃、銭湯の行き帰りに、父親から「モーターはどうして回るのか」「日食や月食はなぜ毎月起きないのか」といった話をいつも聞かされて育ったそうです。
そのような興味深い語りかけが、益川さんの好奇心を芽生えさせ、将来科学の道を志すきっかけの一つとなったことは間違いありません。
子どもたちの理科離れ、考える力の低下が懸念される昨今、教育の場において、いかにして子どもたちに「科学の楽しさ」や「自ら発見することの喜び」を伝えていくかが問われています。
ご家庭でも、市販のキットで実験にチャレンジしたり、科学館等のイベントに参加したりすることはできますが、道具や材料が揃わない、その場かぎりの興味で終わる、体系的な学習ができないなど悩みの声も聞かれます。
そうした保護者の声に応えるように、近年「理科実験」を専門とする教室が各地で増えつつあります。
今回取材したサイエンス倶楽部は、17年の実績を持つ理科実験教室のパイオニアです。
小学生・幼児(年長)を対象とし、本格的な科学実験による「実体感」を通して、子どもたちの好奇心や主体的な思考力を伸ばすことをコンセプトとしています。
現在は1都3県に17教室を展開していますが、今回は船橋市にある津田沼教室のニュートン(小学3年生)クラスを取材しました。
午後の実習は2時から始まるのですが、早い子どもは30分も前にやってきます。早く行きたくてたまらないからだそうです。子どもたちは到着するとすぐに白衣に着替えます。その出で立ちはまるで小さな科学者です。
この日のテーマは「静電気」。冬にぴったりのテーマです。
サイエンス倶楽部では、どの実習でも身近にあるものをテーマに選び、それを掘り下げていくことで、新しい発見が得られるようなカリキュラムになっているそうです。「セーターを脱ぐときパチパチッてならない?」「下敷きで髪の毛を立たせたことある人は?」こんな先生の問いかけにより、早速子どもたちの頭の中からは「何故?どうして?」の芽が出始めました。
小学3年生クラスの実習時間は150分。学校の授業に直すとおよそ3時限分になります。同じテーマを長時間続けて、果たして子どもたちの集中力は持続するのでしょうか? そんな心配は不要でした。クラスの子どもたちは全員最後まで集中力を切らすことなく実習に取り組んでいます。好きなことなら子どもたちは何時間続けても飽きないのですね。
もちろん150分の間には休憩時間もあります。先生とおしゃべりしたり、家から持参した飲み物を飲んだり、ロビーで雑誌を読んだり。中には次の実習の準備を講師がしていると、「先生手伝うよ!」と優しく声をかけてくれる子どもたちもいます。準備から興味津々なのですね。
クラスの雰囲気を一言で表せば「アットホーム」。1クラス10数名の子どもたちを、メイン講師とアシスタント講師の2名が受け持つというクラス編成は、「にぎやかさ」と「きめ細かさ」のバランスをうまく保っているように感じられました。
見た目に楽しい理科実験ですが、先生や友達がやっている様子をただ見ているだけでは学習効果はあがりません。
サイエンス倶楽部の実験では、全ての子どもたちに実験道具・材料を提供し、「仮説(予想)→材料・方法→実験→結果→考察」のプロセスを一人ひとりが自ら把握し考えてもらう指導が行われています。
たとえば、今回行った「手作りライデンびん」という実験を例にみてみましょう。ふだんは偶然にしか体感できない静電気を、人工的に作り出し、集めることができるはずだ、という仮説から出発します。
塩化ビニール製のパイプをティッシュペーパーでこすって静電気が発生することを、音や自分に近づけたときの感覚で確認。その電気をためることができるといわれているものを、外側にアルミホイルを巻いたプラスチックコップを2つ使って作ります。そのコップの近くで塩ビパイプをティッシュでこすると本当に電気がたまるかどうかを予想したら、いよいよ実験開始。先生の合図とともに、子どもたちは一生懸命、こすり続けます。
その楽しそうな顔、顔、顔…。実践は本当に楽しいのですね。
そして最後、いよいよ結果の確認です。外側を片手で持ち、内側につながっている集電板にもう片方の指を近づけると…「ビリッ!」。 子どもたちの予想どおり、自分で静電気を感じることができました。みんな納得の笑顔です。ネオン管や蛍光灯でも試すことで、電気の存在を確かめていきました。
実験が終わると、まとめの考察です。
先生は、子どもたちに問いかけながら、静電気が発生する仕組み、静電気の性質(プラス・マイナス)、指が「ビリッ!」となった理由を確認していきます。子どもたちも学んだことをワークシートにしっかりメモしていきます。
特に印象に残ったのは、先生が帯電列(プラス側に帯電しやすい材質を上位に、マイナスに帯電しやすいものを下位に並べた序列の表)について紹介し、こする物とこすられる物の組み合わせによって、プラス・マイナスの性質や静電気の強さが変わってくることを話すと、子どもたちがその内容を一所懸命書き留めていたことです。
お家に帰ったら試そう!と思っていたのかもしれません。
実習も佳境に入り、いよいよ最後の実験です。
これまで日常にあるものを使って実験してきましたが、最後には少々大掛かりな実験装置が登場してきました。それはまさに非日常の世界です。
子どもたちの興味もいやがうえにも高まります。その装置(バン・デ・グラーフ起電機といいます)を動かすと、とたんに空気中に雷に似たものが走ります。いや、まさに雷です。放電が起こるたびに歓声が上がりました。
身近な静電気から、大掛かりな実験装置まで登場し、静電気を学ぶにはとてもよい機会になったのではないかと思います。
そして最後の最後は、バン・デ・グラーフ起電機で発生させた電気をためて「百人おどし」体験です。ふだんは教室の中に入れない保護者の方々も、この日は特別参加。子どもたちと一緒に手をつなぎます。先ほどコップと同じ構造のもっと大きな装置に静電気をたっぷりためて、たまり具合と安全を確認。そして輪の端の一人は外側、もう一人が内側をさわると「わあーーーっ!」教室中に響く大歓声。
みんなの体を実験道具にして、「人間の体は電気を通す」ことを学びました。
4時30分に実習終了。
子どもたちにはあっという間の150分だったことでしょう。
終了後もみんな興奮が冷めやらぬ様子。なかには迎えに来た家族たちにも実験を試してもらいたくて、静電気をためて、ミニ百人おどしをしている子もいました。なるほど、理科実験において五感をフルに働かせて体験し、考察し、発見して感動することを繰り返すことよって、子どもたちの知的好奇心はここまで刺激されるものなのだ、と納得できた午後のひとときでした。
サイエンス倶楽部では1月下旬より新年度入会希望者を対象とした体験実習・入会ガイダンスを開始します(費用は無料)。お子様の新しい可能性が芽生えるきっかけになるかもしれません。先着順の募集になるので、興味のある方はぜひ早めの申し込みをおすすめします。
取材協力:サイエンス倶楽部
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